サンプルとして曲が使われているミュージシャンのアルバムを紹介します。(PART 10)
前回は、デビッド・ボウイのアルバム「ヤング・アメリカンズ」を取り上げましたが、今回は、この後に出たアルバムStation to Stationを取り上げます。このアルバムから、ドラムスのデニス・デイヴィスが全面的に参加します。
40. Station to Station(1976) – David Bowie
デビッド・ボウイが1976年にリリースしたアルバムです。前作のヤング・アメリカンズはソウル・ミュージックで したが、このアルバムでは、ソウル・ミュージックにロックの要素をプラスしたサウンドになっています。
1曲目のStation to Stationは、ロックなのですが、10分にも及ぶ大作となっています。イントロのギターの効果音的な音からはじまり、サイケデリックなロックで進み、途中で、テンポアップしてストレートなロックになります。私としては、この曲がこのアルバムのいちばんの目玉であると思っています。聴いていて、10分の長さを感じないくらい内容の濃い曲です。
2曲目のGolden Yearsがサンプルに使用されたことがある曲です。この曲は、ファンクにロックの風味を足した曲です。イントロのギターに合わせてデビッド・ボウイのボーカルが入るといった感じで、個性的に聴こえる曲でもあります。
3曲目のWord on a Wingは、メロウなロックナンバー。メロウなソウルナンバーではないというのがポイントです。
4曲目のTVC15は、ホンキートンク調のピアノから始まるロックナンバー。出だしは、ソウル風ですが、サビでロック調になります。
5曲目のStayは、ファンキーなリズムギターとロック調のギターが混ざり合った、まさにロック&ソウルといったナンバー。デニス・デイヴィスのドラムもなかなか決まっていて、いい感じです。
6曲目のWild Is The Windは、オリジナルは、Johnny Mathisが1958年にリリースした曲ですが、調べてみるとデビッド・ボウイは、Nina Simoneが1966年にカバーした曲をベースにカバーしたそうです。デビッド・ボウイのヴァージョンは、フォーク風にできていて、アコースティックギターとともにデビッド・ボウイが感情的なヴォーカルを聴かせてくれます。
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デビッド・ボウイのStation to Stationのアルバム紹介をしましたが、アルバムを聴いて1つ気になったところがありました。それは、6曲目のWild Is The Windで、Nina Simoneのバージョンは、どういう感じの曲なのかということです。そこで、この曲が収録されているアルバムWild Is The Windを聴いてみることにしました。
41. Wild Is The Wind(1966) – Nina Simone
ニーナ・シモンが1966年に発表したアルバム。
サンプルに使用されたことがある曲は、2曲目のFour Womenと8曲目のWild Is The Windです。
全体の内容は、ジャズというよりは、R&B色が濃い演奏となっています。
このアルバムでは、ニーナ・シモンのボーカルのすばらしさは、もちろん、分かるのですが、ニーナ・シモンのピアノ演奏のうまさも味わうことができます。
その中でも、完成度でいちばんなのは、やはり、アルバムタイトルにもなっているWIld Is The Windです。この曲での強弱の付け方は、本当に絶妙で、それは、ニーナ・シモンのピアノを聴いていればよくわかります。曲全体を通して、ニーナ・シモンのピアノはまさにドラマティックと言っていいものです。
このアルバムでは、ニーナ・シモンのピアノが特にさえていて、Wind Is The Wind以外にも、If I Should Lose Youなどでもいいピアノを弾いています。
ニーナ・シモンのボーカルに関しては、声質が独特ですべてが低音に聴こえるかもしれませんが、高音でも歌っており、丁寧なボーカルです。
ところで、ニーナ・シモンは、今年で生誕90年を迎えました。残念ながら、2003年にお亡くなりになりましたが、2023年の7月には、生誕90年を記念して、日本で、フィリップス在籍時代のアルバムがCDで再発売されました。そこで、あと2枚、フィリップス時代のニーナ・シモンのアルバムを簡単に紹介します。
42. Broadway-Blues-Ballads(1964) – Nina Simone
1964年にリリースされたアルバムです。
題名からすると、バランスよく3つのジャンルの音楽が入っている感じですが、実際聴いてみると、中心にあるのは、ブロードウェイのミュージカル音楽が中心で、これをベースに、ブルースやバラード、さらには、アフリカンやボサノバが入っているといった内容です。
ニーナ・シモンに関しては、ヴォーカルが中心で、ピアノの演奏は控えめになっています。
サンプルに使用されたことがある曲は、1曲目のDon’t Let Be Misunderstoodと、9曲目のSee-Line Womanです。
Don’t Let Be Misunderstoodに関していえば、日本では、アニマルズのカバー曲が有名ですが、オリジナルは、ニーナ・シモンの曲のほうです。
このアルバムでは、曲のアレンジャーが2人いて、Hal Mooneyがストリングスを生かした曲を中心にアレンジし、Horace OttがR&B色の強い曲のアレンジをしています。ただ、どちらにしてもニーナ・シモンのヴォーカルスタイルには変わりがなく、個性的なヴォーカルを堪能することができます。
43. Pastel Blues(1965) – Nina Simone
1965年に発売されたアルバムです。
1曲目のBe My Husbandが、あまりにも強烈なものを印象を与えます。この曲のバックの演奏は、基本的にはハンドクラップとドラムのハイハットが中心ですので、事実上、ニーナ・シモンのアカペラと言っていい曲です。
ただ、2曲目以降は、ギター、ベース、ドラムス、そしてニーナ・シモンのピアノとヴォーカルといったバンド編成で、R&Bやブルースの曲を演奏しています。
サンプルに使用されたことがある曲は、Strange Fruit(ビリー・ホリデイの曲のカバー)と、Sinnermanです。
このアルバムで1番印象に残っている曲は、やはり、Sinnermanとなります。この曲は、トラディショナルソングですが、ニーナ・シモンがアレンジして10分にも及ぶ曲になっています。ニーナ・シモンの力強いヴォーカルとピアノ、曲の展開など聴きどころ満載です。
なお、Sinnermanに関しては、日本のサブスクリプションでは、パステル・ブルースに収録されていません。その代わりに、ベスト盤に収録されていますので、もし、サブスクリプションで聴く場合は、そちらで聴いてください。
ニーナ・シモンのアルバムは、本当は歌詞にも触れなければならないのですが、変な解釈をするのもよくないため、ここでは触れません。サウンド面に関して、私は、1度聴いただけでは理解できませんでした。ただ、2度聴くことで良さがわかるようになりました。そもそも、ニーナ・シモンの音楽は、キャッチーなものではなく、自分のスタイルを貫いたものなので、個人的には仕方がないものと思っています。
音楽というものは、改めて、いろいろなものがあるのだと実感しました。
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その後、私はニーナ・シモンのアルバムを聴いて、また、このStation to Stationというアルバムを聴きました。
あまり大きな発見というものはありませんでしたが、ボーカルやピアノにそれなりの影響があったのではと思いました。
特に、ニーナ・シモンのアルバムを聴くことで、なぜ、デビッド・ボウイはピアノにRoy Bittanを起用したのか。それが、なんとなくわかりました。
これは、あくまでも私の考えなのですが、デビッド・ボウイは、このStation to Stationというアルバムを作るにあたって、ニーナ・シモンのピアノがほしかったのではないかということです。
ロイ・ビタンは、1975年にBruce SpringsteenのバックバンドであるEストリートバンドのメンバーになり、その年に、ブルース・スプリングスティーンはBorn to Run(1975)を発表しました。このアルバムの1曲目のサンダー・ロードという曲のイントロを聴けば、いかにロイ・ビタンがドラマティックなピアノを弾くのが得意かがわかりますし、私としては、ニーナ・シモンのピアノにも通ずるところがあるとも思いました。
また、このアルバムでは、ギターのアール・スリックがロック的なギターを弾いていますが、特に、1曲目のStation to Stationは、アール・スリックのギターが曲を盛り上げています。特に、イントロでのギターは、いい演奏です。このアルバムは、アール・スリックのギタープレイにおいての代表作でもあります。
Station to Stationというアルバムは、ソウルにロックテイストを入れただけではなく、R&Bの要素(ニーナ・シモン)も取り込んでできたデビッド・ボウイらしいアルバムだと私は思いました。
(つづく)
(MEMO)
上記で名前が出てきたアール・スリックというギタリストはどういったギターを弾いているのだろうか。そこで、これから紹介するアルバムには、サンプルに使用された曲はありませんが、MEMOという形で、アール・スリックのソロアルバムを1枚を書くことにしました。
●Lost & Found(2000) – Earl Slick
リリースされたのは、2000年のようですが、実際に録音されたのは1975年です。
1975年と言えば、アール・スリックは、デビッド・ボウイのアルバムYoung Americansに参加していました。そういった背景から、ヤング・アメリカンズに参加していたDavid Sanborn(sax)やMike Garson (piano),Aba Cherry,Robin Clark,Luther Vandross(back vocal)などが何曲か演奏に加わっています。さらに、ストリングスアレンジをMichael Kamen(ダイ・ハードやリーサル・ウェポンなどの映画音楽が有名)が手掛けています。
サウンド的には、まさに豪快なロックそのものです。あまり知られていないアルバムかもしれませんが、私個人の感想としては、いいアルバムだと思っています。
このアルバムは、サブスクリプションでも聴けますので、機会があれば聴いてみてください。