サンプルとして曲が使われているミュージシャンのアルバムを紹介します。(PART 19)
前回、スティービー・ワンダーのアルバムをトーキング・ブックからキー・オブ・ライフまで4枚取り上げましたが、今回は、この4枚のアルバムに参加した代表的なミュージシャンのアルバムを何回かに分けて紹介したいと思います。まず最初に、トーキング・ブックにギターで参加したジェフ・ベックのアルバムを取り上げます。
(Introduction)
ジェフ・ベックは、スティー・ビー・ワンダーのアルバムTalking Bookの9曲目に収録されているLookin’ For Another Pure Loveで、エレクトリック・ギターで参加しています。
スティービー・ワンダーが、ジェフ・ベックにこの曲のギター演奏を頼んだきっかけは、ニューヨークでのジェフ・ベックのライブを聴いたことからです。そして、スタジオでジェフ・ベックが演奏した、この曲のギターパートの収録にスティービー・ワンダーは満足し、そのお礼として、Superstitionという曲を作りました。ジェフ・ベックは、Superstitionをベック・ボガード&アピスのアルバムBeck, Bogert & Appice(1973)に収録しました。
一方、スティービー・ワンダーは自身のアルバムTalking Bookの収録曲として自身のヴァージョンを収録し、シングルカットされ大ヒットしました。
その後、1975年、ジェフ・ベックのアルバムBlow By Blowにスティービー・ワンダーが2曲、曲を提供しました。
75. Blow By Blow(1975) – Jeff Beck
というわけで、ジェフ・ベックの1975年にリリースされたアルバムBlow By Blowを紹介します。
正直なところ、このアルバムの中でサンプルに使われたことがある曲は、少ないです。6曲目のCause We’ve ended As Loversがごくわずかながら使用されています。
そのため、このアルバムを紹介しようかどうか、いろいろと考えたのですが、スティービー・ワンダーとジェフ・ベックとのつながりを考えるとどうしても紹介せざるを得ない部分があると思い、少ないですがサンプルに使用されているので取り上げることにしました。
このアルバムBlow By Blowは、全部で、9曲収録されていますが、この9曲すべてがインストナンバーです。
内容としては、ロック風なインストナンバーとファンク調のインストナンバーが半々くらいに収録されています。ファンクナンバーに関しては、多分スティービー・ワンダーの影響から来たのではないかと思われます。
ジェフ・ベックの演奏は、バンドのグルーブの中でギターソロを弾いているといった感じです。リードギターも素晴らしいのですが、リズム・ギターもファンクな感じがしていいです。
参加メンバーは、ジェフ・ベックの他、キーボード:Max Middleton 、ベース:Phil Chen、ドラムス:Richard Baileyといったメンバーです。
ファンクなインストナンバーである1曲目のYou Know What I Meanから始まり、2曲目のShe’s a Womanは、ビートルズの1964年のロックナンバーで、カリプソ風にアレンジしたインストナンバーです。カリプソ風にしたことで、ジェフ・ベックの強弱のあるギターソロやトークボックスの演奏が聴けます。オリジナルのビートルズの雰囲気はありませんが、これはこれでいいアレンジでいい曲です。
3曲目のConstipated Duckもファンクなインストナンバーです。
4曲目のAir Blowerも出だしはファンクなのですが、途中から、ロックインストになります。そして、流れを引き継ぐかのように5曲目のScatterbrainになります。プログレッシブな雰囲気もする曲で、ジェフ・ベックのスリリングなギタープレイが楽しめます。
6曲目のCause We’ve Ended As Loversは、スティービー・ワンダーが作ったバラード調のインストナンバー。最初のジェフ・ベックのチョーキングが印象的 で、トータル的にも、ジェフ・ベックの変化自在のギターテクニックが堪能できます。名演と言ってもいいと思います。
7曲目のTheloniusもスティービー・ワンダーの作った曲で、クラビネットをフィーチャーしたファンキーなインストナンバーです。
8曲目のFreeway Jamは、ジャムセッション風のロックインストナンバー。ジェフ・ベックが弾きまくっています。
9曲目のDiamond Dustは、ストリングスも入った幻想的なスローなインストナンバーです。
76. Wired(1976) – Jeff Beck
前作、Blow By Blowと違い、ジャズ・フュージョンの要素が少し加わったサウンドになっています。
それは、メンバーが前作とは違うのも1つの理由で、このアルバムから、シンセサイザーでJam Hammerが参加していることでデジタルな音質も加わっています。
前作同様、Max MiddletonとRichard Baileyは参加していますが、Richard Baileyに関しては2曲のみの限定的な参加となっています。
その代わりとして、このアルバムでは、ベースでWilbur Bascombと、ドラムスでNarada Michael Waldenが参加しています。
(余談になりますが、ジェフ・ベックがBlow By Blowをリリースした年でもある1975年に日本で公演をした時のメンバーは、Jeff beckのほか、キーボートにMac Middleton、ベースにWilbur Bascomb、ドラムスにBernard Purdieというメンバーでした。そして、おそらく、この流れからWiredにWilbur Bascombが参加したのだと、私は思いました。その時の来日公演は、ブートレックとして出ています。ユーチューブにもアップされていますので興味のある方は聴いてください。)
ドラムスとベースのメンバーが変われば、当然、前作とは違ったグルーブ感になっています。特に、Narada Michael Waldenのドラムスは手数が多くテクニカルで、Wibur Bascombのベースも、ソロフレーズもあり、こちらもテクニカルなものも感じます。ジェフ・ベックはさらに高度なことを試みたかったのかもしれません。
1曲目のLed Bootsは、ドラムスから入り、ギターとベースのユニゾンを経て、アグレッシブなドラムを背景にジェフ・ベックがギターを弾きまくっています。
2曲目のCome Dancingは、ジェフ・ベックの曲の中で1番サンプルに使われたことがある曲です。とはいうものの、サンプル使われている部分は主に冒頭のNarada Michael Waldenのドラムスの演奏のところなので、ジェフ・ベックのギターとはあまり関係ないかもしれません。Come Dancingは、ミディアムなテンポのソウルなインストナンバーで、ジェフ・ベックのリードとリズムの両方が楽しめる曲です。
3曲目のGoodbye Pork Pie Hatは、ジャズ・ベーシストCharles MingusのアルバムMingus Ah Um(1959)に収録されている曲のカバーです。この曲でのジェフ・ベックのギターは、個人的には名演と思っています。ギターの強弱の付け方や、チョーキングやアームなどの使い方が、繊細でよくコントロールされています。この曲のドラムスは、Blow By Blowでドラムスをたたいているは、Richard Baileyです。どこか、ブルースフィーリングも感じます。
4曲目のHead for Backstage passは、Wibur Bascombのベースソロから始まり、ジェフ・ベックがギターを弾きまくる曲です。フュージョンなのですが、ロックにも感じます。この曲もドラムスはRichard Baileyです。
5曲目のBlue Windは、Jam Hammerが作った曲です。ジェフ・ベックのギターとヤン・ハマーのシンセサイザーがうまくマッチしていて軽快感がある曲に仕上がっています。ドラムスとシンセベースもヤン・ハマーが演奏しています。つまり、この曲は、ジェフ・ベックとヤン・ハマーの2人だけで作った曲でもあります。
6曲目のSophieは、スローなギターリフから始まり、途中、テンポアップするロックナンバーです。ジェフ・ベックのギターを中心に、ベース、ドラムス、キーボードもアグレッシブに演奏しています。
7曲目のPlay With Meは、ミドルテンポのインストナンバー。ジェフ・ベックのリフが印象的です。シンセサイザーのソロは、ヤン・ハマーによるものです。
8曲目のLove Is Greenは、アコースティック・ギターとピアノのアンサンブルが中心の曲です。最後の、ジェフ・ベックのヴォリュームのコントロールが絶妙です。
2枚のアルバムを聴いて、ジェフ・ベックというギタリストは、決して、速弾きが売りのギタリストではないということがわかりました。
チョーキング(弦を抑える指のほうで、弦を押し上げたり下げたりして音を変える奏法)や、アーム(ギターについているレバーみたいな棒を動かすことで音が変わる奏法)ヴォリュームの使い方(ギターについているヴォリュームのつまみを動かすことで音が変化する奏法)など、聴いていてきめ細かいし、速弾きもジャズギターのフレーズも交えて弾いている部分もあり、本当に独特です。(なお、ギター奏法に関しては、私は詳しくないので、もっと知りたい場合は、ネットで検索したり、ジェフ・ベックのライブ映像をユーチューブで見たりして調べてください。)
2枚のアルバムを聴いて、これらが単なるインストのアルバムではなく、ジェフ・ベックのアルバムだというのがはっきりとわかりました。
今の時代、ギターが音楽の中心ではありません。ですので、ギターが中心のアルバムを紹介するのは、的を得ていないかもしれません。
コロナ以前は、ギブソンが破産するなどギターの人気が下降傾向でした。それが、コロナ感染が始まって、家にいる時間が長いため、楽器を習得しようという人が増えたことから、ギターの売り上げが伸びたともいわれています。もしかしたら、今後、本当にギターの人気が復活する可能性もあるかもしれません。
私が紹介したジェフ・ベックの2枚のアルバムに関しては、正直、ギター好きの人(特に、リアルタイムで知っている60代、70代の方)なら楽しめると思いますが、そうでない人(特に、10代、20代の方)には、好感が持てるかどうかは未知数です。
ですが、ジェフ・ベックが、単なるうまいだけのギタリストではなく、自分スタイルを持ったギタリストであることは聴けば間違いなくわかると思います。また、ジェフ・ベック以外のバックのミュージシャンも結構うまいので、トータル的にも聴くことができるアルバムです。
(つづく)