サンプルとして曲が使われているミュージシャンのアルバムを紹介します。(PART 9)
前回、ロイ・エアーズのアルバムRed Green and BlackでドラムスのDennis Davisの名前が出ましたが、その後、デニス・デイヴィスは、デビッド・ボウイのバンドのドラマーとして、アルバム制作に参加しました。ということで、今回は、デビッド・ボウイのアルバムの中で、デニス・デイヴィスが最初に参加したアルバムYoung Americansを紹介します。それと、このアルバムを作るにあたって、影響を受けたと思われるフィラデルフィア・ソウルのアルバムを何枚か紹介して、さらに、1970年代前半のソウル・ミュージックのアルバムで私が、サウンド的にヤング・アメリカンズに近いと思ったアルバムを何枚か紹介して、もう一度、ヤング・アメリカンというアルバムについての感想を書きます。
32. Young Americans(1975) – David Bowie
デビッド・ボウイは、このアルバムでは、ジギー・スターダストのようなロックではなく、ソウル・ミュージックを演奏しています。しかも、ソウル・ミュージックをちょっとやったといった軽い感覚ではなく、ミュージシャンの選定からスタジオの選択、ソングライティングまで、すべてにおいて本当にソウル・ミュージックを作ることにこだわりを感じるアルバムです。
1曲目から7曲目と9曲目は、フィラデルフィアにあるシグマサウンドというフィラデルフィア・ソウルの拠点となっているスタジオでのセッションが中心です。このセッションでの曲の特徴としては、すべての曲のテンポは違いますが、本当に、本格的なソウル・ミュージックであるところです。特に、デビッド・サンボーンのサックスとバックボーカルを生かした曲が多いです。デビッド・ボウイのボーカルもソウルフィーリングあふれるものになっています。
また、このフィラデルフィアセッションには、当時まだ無名であるルーサー・ヴァンドロスが、バック・ボーカルやソングライティングなどで参加しています。
8曲目と10曲目は、ニューヨークでのセッションです。この2曲には、ビートルズのメンバーであるジョン・レノンが参加していて、ドラムスのデニス・デイヴィスもこの2曲に参加しています。
8曲目のアクロス・ザ・ユニバースはビートルズ時代にジョン・レノンが作った曲で、オリジナルはジョン・レノンの語り掛けるようなヴォーカルが特徴ですが、ここでは、デビッド・ボウイとともにシャウトしています。
10曲目のFameは、サンプルに使用されたことがある曲で、かなりファンクな曲です。この曲を初めて聴いたとき、これが、デビッド・ボウイの曲なのかと驚いてしましました。まったくロック色がないファンクな曲です。なお、この曲に関しては、ジョン・レノンも曲作りに参加しています。
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このように、デビッド・ボウイのアルバムYoung Americansを紹介したのですが、果たして、このアルバムが、どれほどソウル・ミュージックの影響を受けたのか。私なりに、いろいろと調べ、何枚かアルバムを紹介することにしました。
まず最初に、ヤング・アメリカンズを録音した場所の1つが、フィラデルフィア・ソウルの本拠地であるシグマ・サウンドというスタジオであることから、フィラデルフィア・ソウルのアルバムを取り上げます。
33. MFSB(1973) – MFSB
多くのフィラデルフィア・ソウルの曲で、メインアーティストの バック演奏を担当していたのがMFSBというスタジオ・ミュージシャンからなるバンドです。これは、彼らのデビュー・アルバムになります。因みに、MFSBは、Mother,Father,Sister,Brotherの略です。
内容としては、多少ジャズの雰囲気がありますが、ストリングスを生かしたソウル・ミュージックのインスト版と言っていいと思います。
サンプルに使用されたことがある曲は、3曲目のSomething For Nothingという曲です。
私が、印象に残った曲は、1曲目のFreddie’s Deadという曲で、Curtis MayfieldのアルバムSuperfly(Soundtrack)(1972)に収録されている曲のカバーです。この曲では、Vincent Montana Jr.が、なかなかいいヴィブラフォンのソロを弾いています。ロイ・エアーズのヴィブラフォンとプレイスタイルが似ている感じがしますので、好きな人にはお勧めです。
なお、このアルバムには、ボーナストラックとして彼らの最大のヒット曲でもあるT.P.O.Sのライブバージョンが入っています。こちらもいい演奏なので、ぜひお聴きください。
34. The Three Degrees(1973) – The Three Degrees
3人組女性ボーカルグループが1973年にリリースしたアルバム。
スリー・ディグリースは、日本では根強い人気があり、数多く来日公演をしていることからもわかります。
いちばんサンプルに使用されたことがある曲は、2曲目のA Woman Needs a Good Manです。他には7曲目のIf and Whenと、スリー・ディグリースの代表曲である4曲目のWhen I Will See You Againがサンプルに使用されています。
Kenneth Gamble & Leon Huffのプロデュースの元、MFSBのていねいな演奏をバックに、メンバー3人のボーカルワークが繰り広げられています。
私が印象に残った曲は、7曲目のIf and Whenです。単純な感想なのですが、イヤホンで聴いていて最後のほうが独特な音のとり方をしていて、聴いていて何か不思議に感じました。
アルバム全体を通して、曲もよく、アレンジもよかったので、聴きやすかったです。
35. The Stylistics(1971) – The Stylistics
1971年にリリースされたスタイリスティクスのデビューアルバムです。プロデューサーはThom Bellです。バックミュージシャンは、ほぼ、MFSBメンバーで固められています。
サンプルに使用されたことがある曲は、多い順にYou Are Everything、People Make the World Go Round、Stop,Look,Listen(To Your Heart)などです。
スタイリスティクスも、日本で数多く公演をしていて根強い人気があります。
アルバムの内容としては、ミディアムからスローなナンバーが中心で、高音で歌うリード・ボーカルと、これをバックアップするバックボーカルのコンビネーションが中心です。アレンジもよく、洗練されたサウンドは、正にスイートソウルといった感じです。
36. Black & Blue(1973) – Harold Melvin & the Blue Notes
ハロルド・メルビン&ザ・ブルーノーツは、5人組で、この時期は、リードボーカルのTeddy Pendergrassのボーカルを中心に、他の4人がバックボーカルでサウンドを支えているバンドです。
サンプルに使用されたことがある曲は、2曲目のThe Love I Lostと5曲目のSatisfaction Guaranteedです。
アルバム全体的には、曲のテンポには違いがあれど、テディ・ペンダーグラスの熱のこもったヴォーカルと、手堅いバックボーカルの組み合わせといった構成です。
MFSBのバックの演奏は、ストリングスやホーンを中心として、しっかりとしたものになっています。
熱いボーカルが好きな方向けのアルバムです。
フィラデルフィア・ソウルのアルバムを4枚紹介しましたが、フィラデルフィア・ソウル以外にも、ソウル・ミュージックのアルバムはあります。そこで、数多くある1970年代前半のソウル・ミュージック(私自身すべてのアルバムを聴いたわけではありません。)のアルバムの中から、ヤング・アメリカンズのサウンドに近いと思ったアルバムを何枚か紹介します。
37. 3 + 3(1973) – The Isley Brothers
1973年にリリースされたアイズレー・ブラザーズのアルバムです。
サンプルに使用されたことがある曲は、Summer Breeze,The Highways of My Lifeなどです。
アルバムの内容としては、ソウル・ミュージックなのですが、リズム・アンド・ブルースの影響があるサウンドとなっています。
1曲目のThat Ladyの太いギターの音から、ロックぽいアルバムなのかと思ったのですが、2曲目から本格的なソウル・ミュージックになり、いいボーカルを聴かせてくれます。
5曲目のListen to the Musicは、ロックグループであるThe Doobie BrothersのアルバムToulouse Street(1972)に収録されている曲のカバーです。アイズレー・ブラザーズは、ここでは、ファンク風にカバーしていますが、オリジナルの雰囲気も大事にしています。
一番の聴きどころは、8曲目のSummer Breezeです。スローバラードで、特に後半のギターソロは、聴きものの一つです。
38. People… Hold On(1972) – Eddie Kendricks
エディ・ケンドリックスがテンプテーションズから脱退し、ソロに転向してから2枚目になるアルバムです。
内容としては、ソウルミュージックなのですが、ファンク調の曲も何曲かあるといったところですが、このアルバムは、曲調というより、やはり、エディ・ケンドリックスのボーカルを聴くアルバムだと私は思いました。
このアルバムのバックで演奏しているバンドはThe Young Senatorsというローカルなファンクバンドなのですが、これが、結構エディ・ケンドリックスのボーカルと結構あっていてなかなかいい味を出しています。
サンプルに使用されたことがある曲は、1曲目のIf You Let Me、6曲目のMy People… Hold On、10曲目のJust Memoriesなどです。
私が、印象に残っている曲は6曲目のMy People…Hold Onで、この曲でのアフリカンのリズムは壮大さを感じます。
39. Fresh(1973) – Sly and the Family Stone
1973年にリリースされたスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンのアルバムです。
このバンド独特なグルーブによるファンクナンバーが詰まったアルバムです。
ファンク系のアルバムは数多くありますが、スライ・アンド・ザ・ファミリーストーンほど独特なグルーブのバンドはないと思います。
収録曲の特徴としては、ベースが中心になっていて、そこに、他の楽器やボーカルが絡んで独特なグルーブを作っています。
聴いていて、ヒップホップにも通じるものがあるサウンドで、当時としては、斬新だったのではと思いました。
サンプルに使用されたことがある曲は、1曲目のInTimeや2曲目のIf You Want Me to Sayなどです。
なお、このアルバムのドラムスは、ヤング・アメリカンズでもドラムを演奏しているAndy Newmarkです。
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いろいろと、私なりにデビッド・ボウイのアルバムYoung Americansを理解するために、ある程度ソウルミュージックを聴きました。
そこで、また改めてデビッド・ボウイのアルバムYoung Americans(1975)を聴くことにしました。
聴いてみて、やはり、ソウル・ミュージックのアルバムなのですが、デビッド・ボウイのボーカルは、いろいろなソウルミュージックの影響を受けながらも、オリジナリティーがあるものになっていると思いました。
バックボーカルも全員が女性ではなく、男性の声も入れて、自分に合ったバックボーカルのトーンにしています。
改めて聴いた5曲目のSomebody Up There Likes Meは、デビッド・ボウイの声質から普通に感じますが、よく聴くとものすごく熱の入ったボーカルだとわかりました。
ルーサー・ヴァンドロスとの共作の3曲目のFascinationも、ファンクとソウル・ミュージックをミックスした感じで、デビッド・ボウイならではのサウンドです。
このヤングアメリカンズというアルバムは、9曲目のCan You Hear Meではストリングスが使われていますが、他の曲では、一般的なソウルミュージックによくあるストリングスやホーンセクションがありません。つまり、デビッド・ボウイは、バンドサウンドでソウル・ミュージックを作ったということです。それゆえに、デビッド・ボウイの個性がよく反映されたサウンドになっていると私は思いました。
いろいろと長くなりましたが、書いているうちにいろいろと気になったため、こういう記事の書き方になってしましました。
音楽の解釈というのは人それぞれ違うので、あくまでも、この記事に関していえば、私の独断による解釈でしかありません。
ですので、今回の記事は、正誤により決めつけるのではなく、あくまでも、1つの参考記事として捉えてもらえれはありがたいです。
(つづく)